波打際の舞台日記

音楽ライブ・演劇を中心に、舞台の感想・意見などを書いています。

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「泣くロミオと怒るジュリエット」シアターコクーン

シアターコクーン・オンレパートリー2020
作・演出:鄭義信
出演:桐山照史柄本時生高橋努ほか

2020.2.10.(月)マチネで「泣くロミオと怒るジュリエット」を観た感想。Bunkamuraシアターコクーンコクーンシートは見切れる部分が多いのだが、比較的ストレスなく見られた。

上演時間は休憩込み3時間20分。

映画にもなった「焼肉ドラゴン」で知られる鄭義信の作・演出。「焼肉ドラゴン」は全身を揺さぶられるような芝居で、記憶に残る舞台だった。

namiuchigiwa.hatenablog.com

・映画 
焼肉ドラゴン [ 真木よう子 ]

「泣くロミオと怒るジュリエット」は、鄭義信が作・演出する、オールメール(全員男性キャスト)&関西弁の「ロミオとジュリエット」という芝居。

チケット的には、ロミオ役の桐山照史ジャニーズWESTということで、若い女性が9割方。高齢の人もチラホラいた。立見が10人くらい(当日券じゃなくて前売で発売)の混雑ぶり。

 

メインの役の女性役は柄本時生八嶋智人の2人。タイトル通り勝気な女性たちで、見かけがしっくりこない女性役ということで笑いも取る役どころ。

ロミオは吃音があり自信が持てない唯一弱気なキャラクター。というわけで「泣くロミオ」。難しい台詞だと思うが、桐山照史がうまくこなしていた。

内容は、「ロミオとジュリエット」というより、その潤色である「ウエスト・サイド・ストーリー」を彷彿とさせるオリジナル。ヤクザ系チンピラと在日コリアン系チンピラの抗争に引き裂かれる若いカップルの悲劇を描く。

舞台は大阪弁だから多分、大阪。戦後すぐのしみったれた焼け跡バラックで、戦争で家族を失い、体や心を損傷した人々が生きている。うらぶれた感じ、明日のことなんか考えていられない感じが非常にリアルだった。

このリアルさを隅々から身体で感じさせる感覚は、すごい。そしてこれぞ演劇的。

一方で時々挟みこまれる歌と踊りはとても華やかだった。

抗争シーンの動きの派手さも見どころ。

マキューシオ役の元木聖也がポンと飛ぶアクロバットな動きの身軽さ、それから義足を付けて動きにくそうな高橋努の立ち回りは見事だった。

 

同じ町に住む人に、差別が直接向けられて争う場面を舞台にしている。「三国人」なんて一度は死語になったと思っていたけれど、差別が再び表に出てきた社会への問題提起なのだろう。

戦後の焼け跡バラックがとてもリアルで、きっとこうやって戦争に行って、戦後を生きて、そして抗争していただろうと思わせる。

 

笑いに彩られた抗争の中で、恋人たちが得られなかった幸せを語り、幻視させるシーンはひたすらに哀切で、美しかった。

彼岸にしか存在しない幸福。それはまるで宗教が語る辛い現世に対する天国のようだと思った。
あの世にしか争いのない社会はないのかもしれない。

 

唯一違和感を感じたのは、あまりに圧倒的なリアルさに対して、借り物の要素があること。

なんで役名はロミオとジュリエットなんだろう?

大震災の流言飛語による暴行も、差別の行きつくところという意図は理解するけれど、年代のずれが気になった。

それだけリアルなドラマだった。

 

最後に。お約束で一斉にスタンディングオベーションをするのは、できればやめて欲しいのですが。拍手だって、礼儀ではないですよ。

ファン心理で応援したいのだと理解はするのですが、自発的サクラ感が満載だと、折角の芝居の興奮が冷めてしまいます。よろしくね。

 

<追記>新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、東京公演は2/28(金)以降中止、大阪公演は中止。残念です。