波打際の舞台日記

音楽ライブ・演劇を中心に、舞台の感想・意見などを書いています。

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SPAC-静岡県舞台芸術センター「アンティゴネ~時を超える送り火~」(ビデオ)

作:ソポクレス
構成・演出:宮城聰
出演:美加理、阿部一徳、本多麻紀ほか

2020.5.3.にSPACの「アンティゴネ」を限定無料配信で観た。

上演中止を受けてアヴィニョン演劇祭の「アンティゴネ」無料公開

本当なら今年は駿府城公園で「アンティゴネ」が上演されるはずだったが、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で上演中止。

『ふじのくに⇄せかい演劇祭2020』の代わりにインターネット上でリモートで開催されている『くものうえ⇅せかい演劇祭2020』のプログラムとして、上演期間の4日間だけ無料公開された。

『くものうえ⇅せかい演劇祭2020』開催

『くものうえ⇅せかい演劇祭2020』では俳優による朗読やエッセービデオ、「アンティゴネ」の解説や俳優・スタッフからのメッセージなど、関連企画が盛りだくさん。

中でも「『アンティゴネ』の水を全部抜いてみた〜対位法のひみつ」というコロスの台詞(コーラス?)の解説は必見。YouTubeにあるので、できたら本編の前に見るのがおすすめ。ちょっと耳が良くなった気がした。

そんな関連企画でウォームアップして、いよいよ「アンティゴネ」。

アヴィニョン法王庁中庭に水の舞台

2017年にアヴィニョン演劇祭で上演された舞台の映像で、会場はアヴィニョン法王庁中庭。

後ろに古い建物があり、中庭だと思われる舞台には水が張られている。役者は足を浸して歩き、僧が水の上を船のように進んでくる。かなり横に長い舞台。

SPACは二人一役を多用していて、一人の登場人物をスピーカー(語る人)とムーバー(動く人)に分けて、二人で一役を演じる。

このムーバーの影を後ろの歴史的な建物に大きく投影していたのが印象的だった。

(カメラはムーバーは影と一緒に遠景で映し、アップはスピーカー中心。個人的にはいつもムーバーばかりを見ていることに気付いた。)

権力者と反対する者のそれぞれの覚悟

ク・ナウカ時代の2004年に国立博物館の前の特設舞台でも見たはずだが、こちらは「マハーバーラタ」と違ってまったく既視感なし。だいぶ違う舞台だったのかな。

多分そのときの「アンティゴネ」は主役=アンティゴネが異議申し立てをする劇だったのではないだろうか。そういう物語だという記憶がある。

今回の「アンティゴネ」はもっと重層的だった。前半はアンティゴネに光を当てて、権力者の誤りに対して違うと言い、行動することの覚悟を語る。

後半はクレオン王の物語。未来が分からない中で決定することの不確実さ、権力者の孤独を語った。

社会が混乱する今見ると特に両方の立場がよく分かる。両方があって社会が回っていくことも。

美しい静寂のラスト

最後は盆踊りの和にどの立場のものも全員が入っていく。役者も演奏者もみんな。死は全員を一人のかつて生きていた人間に還していく。

争いのない安らかなあの世の盆踊り。どんな強情もほんの一時のことだったと思わされた。

エンディングに段々音が消えて、金属の残響だけになり、闇に呑み込まれていくところは身震いした。静寂の美しさ・・・。

途中に日本の民俗的な祝い唄のような歌が挟みこまれ、最後は灯篭流しと盆踊り。先祖が神になる日本的な宗教の意識が前面に出た舞台だった。

衣装もアジアっぽいし、このフランスでの公演やこの後のニューヨーク公演などでは、相当にアジアっぽい舞台として感じられたのだろうと思う。

生きているのはほんのひと時で、全員が死んでいくという平等さが、安らぎになるというのは不思議な感覚だった。

ギスギスする今の荒れる心を和らげられるヒントにならないだろうか。そんな感想を持った。