作・演出・出演:野田秀樹
出演:高橋一生、松たか子、多部未華子ほか
2023.7.14.(金)NODA・MAP「兎、波を走る」を東京芸術劇場プレイハウスで観た。A席2階サイドの席だが見切れなし。
公演時間は休憩なし2時間10分。
当日券と思われる列が東京芸術劇場の2階にぐるっと端までできていた。
(以下、中心となる題材のネタバレなしで感想だけ書きます)
NODA・MAPの公演はここ10年くらいずっと、過去の戦争や事故、実際の人物などを題材にしてきた。
前回「フェイクスピア」は記憶のもやの中を歩くように核心の話がはぐらかされ続けたし、「Q」「逆鱗」は途中で急転直下話が転換した。なので今回も初めしばらくは言葉遊びが展開するのかと思いきや。
今回の「兎、波を走る」は直球だった。はぐらかすことなく本題へ。
初めは「桜の園」を置き換えた遊園地で始まり、チェーホフやブレヒトっぽい作家が出てくる。(正直ブレヒトはあまり詳しくないからその辺の細かいところは読み取れなかったと思う)
もちろん言葉遊びはあり、「不思議の国のアリス」の世界、そして本題へとイメージでつながっていく。今回はその「桜の園」の世界と「不思議の国のアリス」の世界で語っていることが、ストレートに本題につながっていたと感じた。
あまり好き勝手遊びづらい(そういう気になれない)緊張感が伝わってくる舞台だった。
自分はというと、この題材についてほとんど知識がないことに打ちのめされていた。
これまでの戦争や事故の題材はそれなりに知っている話で、「これは事実」「これは遊び(創作)」と見ながら切り分けることで、衝撃的ではあるけれど安心できていたのだと思う。
今回は細かな事実関係になるほどに知らないことが多く、巻き込まれているような不安を感じていた。
後でデジタルチラシ冊子を見たら参考文献が書かれていた。事実関係はこの本に基づいていると思われる。
どんどん具体的になる事実の迫力が重かった。
安易な未来の希望が語れないラストで、帰りの階段で足がすくんだ。
そしてしばらくたって、理屈や理由探しなんかどうでもいい悲しさが押し寄せてきた。
今回の公演で目を引いたのは映像テクノロジー。役者に重ねて映像を映し出していた。
舞台装置は堀尾幸男。合わせ鏡がすごかった。しくみが全然分からず、いつか模型を見せてもらえると嬉しい。
沢則行の海老などの人形も出てきて、本当は落ち着いて見たかった。それどころじゃなかったのが残念だ。