ふじのくに野外芸術フェスタ2024
作:岡倉天心
演出・台本・出演:宮城聰
音楽:棚川寛子
出演:美加理、大高浩一、吉植荘一郎ほか
2024.5.5.(祝)SPAC「白狐伝」を駿府城公園 紅葉山庭園前広場 特設会場で観た。
昼間の「ストレンジシード静岡」の感想はこちら↓
昼は20℃を越えて日なたでは暑いくらいだったのだが、夜は寒くなった。3月くらいの厚手の上着とストールでも、やや風が冷たく感じる温度差。野外恐るべし。
今回は500席位の指定席はすべて満席。
開演前に、原作を書いた岡倉天心について解説するプレトークと、高校生による簡単なあらすじ解説のプレパフォーマンスがあった。「信太妻」や「葛の葉」と呼ばれる昔からある有名な物語らしい。
ものすごく粗くまとめると、白狐が恩義を感じた人間の男に尽くし、最後には身を引く話。
前半は悪役の独壇場だった。芝居がかったいかにもな悪役が素晴らしい。
そして後半は、未練と悲しみの中で生身の狐に戻るシーンが圧倒的だった。ムーバー美加理でなければできない、思いに突き動かされる独特の動き。打楽器の音とシンクロして、心臓を打つ音のように感じられ、観劇後まで音が体に残った。
愛した男から身を引かせたのは、道徳などではなく、獣と蔑まれることへの怖れだっただろう。狐と人間というより、身分が劣る女性の愛と哀しみの物語のように見えた。直接的には人間と、また姫との対比なのだが、男性に対して劣った存在とされた女性と読み替えて見ても違いはないように思える。
最後、狐に戻った白狐コルハと男が離れて向き合うシーンで幕を閉じる。台詞はない美しいシーンだが、中心にあるのは恐れだと感じた。与える愛、無償の愛に対する恐れ。貰うばかりで返せない愛への恐れ。それは自然に対する人間の態度でもあり、作者の回りの女性たちに対する態度でもあったのではないだろうか。
1カ月前に亡くなった葉山陽代をしのび、アンコールでは「顕れ」の曲を演奏した。主役コルハのスピーカーの代役は宮城聰。謡みたいなのもあるし余人では難しそうだ。ク・ナウカのときのクセの強い語り口を思い起こさせた。