波打際の舞台日記

演劇を中心に、舞台の感想・意見などを書いていこうと思います。

六月大歌舞伎 夜の部「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと) 風雲児たち」歌舞伎座

(大きな写真より下にネタバレあり。初めの部分に座席・時間の情報をまとめているので、観劇がまだの方はそこだけ読んでください。詳細は知らない方が楽しめます。)

原作:みなもと太郎
作・演出:三谷幸喜
出演:松本幸四郎市川猿之助片岡愛之助ほか

歌舞伎座の六月大歌舞伎、夜の部は三谷かぶき「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと) 風雲児たち」。2019.6.4.(火)に観た。3階A席3列目。花道はスッポンがギリギリ見えて、見えないストレスは全くなし。平日16:30開演だが、満席だった。休憩を2回挟んで、20:20頃終演。食事休憩になる30分休憩が17:30頃からで、いつものことながら早い。


演劇界 2019年 8月号

内容は、江戸時代に嵐で難破した船乗りが、8か月の漂流の後、ロシア領のアリューシャン列島にたどり着き、帰国を目指して転々とし、サンクトペテルブルグ女帝エカテリーナに謁見して帰国の途に就く、という話。井上靖の小説「おろしや国酔夢譚」や、小説を元にした映画でも扱われた、有名な史実を元にした冒険譚だ。

歌舞伎座

マンガ「風雲児たち」を原作にし、三谷幸喜が作・演出をした意味は、コメディタッチにある。ずっと滑稽な感じで口論をしている庄蔵と新蔵、ふんだんに入る笑いのシーン、そして圧巻の犬ぞり隊の犬の群れ! 数といい、転げまわる様といい、すごかった。なんかかわいいし。コメディを作るという意味では成功したと思う。

とはいえ、物語の骨格は、過酷な運命と闘う悲劇的な話。最初と最後の海のシーンは舞台全体で布を使って立体的に表現し、迫力があった。最初の漂流のシーンはかなりずっしりと重苦しい。その後の転々とロシア内陸に進んでいく部分は、軽くロードムービーのよう。

「これは歌舞伎なのかと悩みながら作った」という趣旨のことを、三谷幸喜がエッセイで書いていたが、歌舞伎ファンではない私にとっては、歌舞伎だった。歌舞伎役者が長唄鳴り物入りで演じれば、どうやっても歌舞伎になる気がする。演出も歌舞伎の引き出しから出てきたように思うシーンが多かった。歌舞伎の世界以外の人が演出すると、つい花道やセリ、回り舞台を使いすぎる傾向にあるのだが、そういう初めてではしゃいだ感じがなく(三谷幸喜作・演出の歌舞伎は2006年のPARCO劇場「決闘!高田馬場」に次いで2回目)、落ち着いた演出だった。役者やスタッフと一緒に作れた良い現場だったんじゃないかと想像する。

エカテリーナ女帝に拝謁するシーンは、どの衣装も金色に光っていて、きらびやかだった。宮殿にずらっと正装した男役と女役に、やっぱり宝塚を連想した。女役の話し方がいつもの歌舞伎と違って自然な感じ。でも女。そんな技も持っていることに驚いた。

八嶋智人はこの舞台がはまり役。自分の型にこだわる人という印象があるが、それが歌舞伎の様式美とうまく呼応した。歌舞伎座で見栄を切るなんて気持ちいいだろうなあ。

新・染五郎が初々しい。世代交代を感じるのは歌舞伎の特色の一つである。名前も変わったし、一世代回ったなという感想。

最後、帰国の船が日本にたどり着く直前で幕となる。「おろしや国酔夢譚」では、帰国したものの鎖国下の日本で、小石川の薬草園に幽閉されたのが大きな悲劇として描かれたのと比較すると、だいぶ印象が異なる。17人いた乗組員が2人まで減り、失った仲間を嘆くシーンなのでハッピーエンドではないけれど。「おろしや国酔夢譚」を知っている人と知らない人とでは、エンディングの印象は異なるのではないだろうか。これからまだ悲劇は待っていると思うか、ようやく帰れたと思うか。ところでWikipediaによると、帰国後の光太夫らは故郷伊勢に一時帰郷できたようだ。それは良かった、としみじみ思う。

次の歌舞伎は12月の「風の谷のナウシカ」。昼夜通しは初めての体験だ。チケット取れるのか?


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